2011年6月13日月曜日

口から食べられなくなったらどうするのか。

 去る5月29日、「ケアの臨床哲学」研究会主催のシンポジウム「高齢社会における人工栄養を考える」に参加した。
 医療技術の発達は、これまで助からなかった多くの人々を救ってきたが、その一方で、終末期の状態にある人にまで、その技術を使うことに対しての疑問もあると思う。
 今回、京都の医師・荒金英樹さん、神戸の言語聴覚士・前田達慶さん、そして東京大学の死生学応用倫理センター・会田薫子さんの話題提供があった。
 口から食べられなくなった場合に胃ろうという処置が行われることが増えてきた。長期に渡り口から食べることが出来ない患者や、食べてもむせ込んで誤嚥などを起こす患者に対して使用され、腹壁と胃腔の間に造られた孔にチューブを通して、直接胃の中へ栄養を注入する方法である。
 現在の胃ろう栄養の患者は、50万人程度と推計されており、高齢者が増え続ける2025年くらいには100万程度に増える可能性があると言われている。
 そう言った中、今、世論は胃ろうに対して逆風であると思う。とくに昨年の2月に石飛幸三氏の著書「平穏死のすすめ」が評判になってからは、特に医療者側に顕著になってきた。今や胃ろうか平穏死かという二者択一的な傾向すらあるようにも思える。本当に胃ろうは一方的に悪なのか、それとも選択肢の一つとなり得るのかを今回を機に考えてみたいと思った。
 シンポジウムでいろいろと話を聞いて、やはり使い方によって有効な場合と、害になる場合があるようである。
 今足りないのは、インフォームド・コンセントであり、「なぜ必要なのか」、「手術内容と合併症」、「目的や治療のゴールについて」、また「メリット・デメリット」、「全ての選択肢」について医療者側にじっくりと説明をしてもらうことが大切だと思った。私の友人の親族でも、入院中に誤嚥性肺炎を起こし、急に提案をされたのだ。我々市民の駄目なところであるが、普段から勉強していない為に、何がなんだか分からないまま医療者側の言うとおりにしてしまい後悔することがある。改めて我々市民も変わらねばと考えさせられた。
 今まで私は正直、胃ろうを造設すれば、それはイコール終末期であり、二度と外すことは出来なくて、後は死を待つのみだと思っていた。しかし造設することにより確実に栄養を補給することが可能になり、身体状態を良いレベルに持っていき、また口から食べられることになることも可能であるようだ。そして不要になれば、閉鎖することも出来るようである。つまりQOLの改善をするための一時的な栄養法と言える。
 一方、認知症患者は難しい。また実際、対象者は認知症患者が多いことも確かだ。欧米の概念は、できるところまで食事介助し、それが出来なくなったときは、患者は最終段階に入ったことを理解すべきだ、というように言われていると聞く。でも正直、私にはそこまで割り切れない。色々な調査を見ると、自分のときは胃ろうなどによる延命策はいらないと言いながら、家族がそのような状態になったときには、胃ろうという延命策も選択肢に入ると答えている。日本人の死生観が固まっていないのだ。しかし欧米の死生観の直輸入が良いとも思っていない。
 老衰の過程で徐々に食べられなくなってきた高齢者に、医療者は選択肢としてこの提案する場合、患者の尊厳という観点も考えて話すべきであると思う。しかし家族にしてみれば、生死の選択を迫られて戸惑ってしまい、本人の尊厳を尊重するよりも、身内として罪悪感を感じなくてすむ選択をしてしまいがちであるのではないか。つまり普段から家族の中で延命治療について話し合っておくことが最も重要と言える。我々市民がそういう話題を避けてしまう傾向があることや、医療者側が「本人の意向」よりも「家族の意向」を安易に優先させてきた、日本の根深い非倫理的医療慣習があるのではないか。患者側も、家族に遠慮せずに自分の死生観どおりに死にたい、と声を上げるべきであると思う。
 「どのようになっても、その人らしさは失われない」、医療者をはじめ、患者を取り巻く様々な人たちの「良心」や「誠実さ」が問われているのではないか。
 この問題は超高齢社会を控えて、今後ますます議論を深めていかなければならない。その中で我々市民が何が今出来るのかを引き続き考えたい。(浦嶋偉晃)

2 件のコメント:

  1. 今まさに私の親が口からものを食べなくなり、特養から病院へ本日入院しました。施設の人も病院の人も、食べない以外どこも悪くないと言います。どこも悪くないのだから、どんな形でも栄養さえ補給できればまだまだ生きられますよと、私を励ましているかのようですが、私自身は、食べないということがつまりは終焉を示していると考えてしまいます。栄養を補給して永らえさせて、本当に親は幸せだろうか、また、自分はそれが最良だと心から思えるだろうか、考えます。悲しいかな、親の意志を確認することができません。自分がこの人を親とし、この人の子として、導き出さなくてはならないのかと思っています。

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    1. 初めまして。浦嶋と申します。
      今は大変な状況かとお察し申し上げます。
      私のような医療者でないものが、軽々しくコメントできる状況ではないと思っております。
      ただ一つだけ、絶対に口から食べることは駄目なのでしょうか。唾を飲み込めたら食べられると言います。
      今は差し迫った状況かと存じますので、一度、尼崎市の長尾クリニックの長尾和宏先生にご相談してみてはいかがでしょうか。
      こういう容態については、とても詳しいので、良いアドバイスが聴けると思います。
      http://www.nagaoclinic.or.jp/ →ホームページです。
      電話番号とメールアドレスが書いてあります。

      差し出がましいことを申しまして、大変失礼いたしました。

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