2012年5月30日水曜日

「サイコオンコロジー 患者さんと家族のこころのケア」

去る5月27日(日)、「奈良県のホスピスとがん医療をすすめる会」の第59回勉強会に参加した。
今回は奈良県で唯一のホスピスである国保中央病院「飛鳥」の緩和ケア長の四宮敏章先生が、『サイコオンコロジー(精神腫瘍学) 患者さんと家族のこころのケアについて』とテーマでご講演をされた。
以前から四宮先生に「サイコオンコロジー」という言葉についてお聞きしていたが、なかなか内容まで理解が進まず、今回お聞きできるのが楽しみだった。
簡単に言うと、「サイコオンコロジー」とは、心(サイコ)とがん(オンコ=腫瘍(しゅよう))との関係を解明し、がん患者さんの精神面のケアを目的とし、がん医療の領域では最新の分野とのこと。
実際にがん患者の苦悩の中で「痛み、副作用などの身体的苦痛」より多いパーセンテージを占めるのが、「落ち込み、不安、恐怖感などの精神的なこと」であり、50%以上の割合である。やはり「悪い知らせ」は、患者の将来への見通しを根底から否定的に変えてしまうものだ。
サイコオンコロジーはがんがこころに与える影響を分析し、こころのケアをすることにより、QOLの向上を図り、合わせて生存率の向上にも影響を与えるというものである。
現在、本年度中に成立を目指している、次期がん対策推進基本計画の骨子の中にも、緩和ケアは「がんと診断された時から」と掲げている。2007年度では、「治療の初期段階から」と書かれており、今回は初期というあいまいな表現をなくそうとしている。また緩和ケアの対象を、「家族や遺族」も含む、ともしている。ここが5年経過して、進歩した箇所かと思う。私もがんがこころに与える影響は計り知れないもので、また家族、遺族への悲嘆のケアも必須のものであると考えている。
 
四宮先生は3つの症例を上げられ、がんがこころに与える影響を説明してくださった。ある症例では、がん治療中の奥さんが、夫からのたびたびの不用意な言葉に傷つけられ、一度「主人を診察してほしい」と先生に要請されたという。闘病する奥さんもまた、ご主人に感情をぶつける。負の応酬となっていたのだろう。
四宮先生は夫と面談し、がん患者の家族への対応として以下の3点をアドバイスしたという。
①奥さんはあなたが怒るようなことを、ストレス発散のために、わざと無意識にしている
②でもそれは、病気を受け入れようとしている葛藤の一側面でもある、
③また、安心してストレスをぶつけられるのは、信頼できる人すなわち夫であるあなただけだ。
この3点を考えるようにすれば、奥さんから感情をぶつけられたときにあなたも自分の感情を抑えられ、もう少し受け入れることができるかもしれない。もしあなたも同じように感情が出てしまったら、奥さんの感情が収まるのを待って、「傷つけてごめんなさい」と言ってみてください、と言われたそうだ。そしてそのことを夫が実践することにより、徐々に解消されていったそうである。
 
やはりがん患者には適応障害、うつ病という精神症状が出る頻度がとても高い。しかし本人は自分がうつ病であることを否定する。「私がそんな病気にかかるはずがない」である。
がん患者、家族はもちろん、主治医、医療スタッフも、うつ症状を見逃したり、軽く考えがちである。つまりうつを過小評価してしまうのである。
  がんと告知されて、様々な身体症状がでる、これを本人、家族はがんが悪化して全身に転移して症状が出ていると思ってしまいがちである。しかし実際には多くはうつ病が多く起因していることに気付いていない。うつの症状を緩和することによって、良くなることが多い。
 ここは大きなポイントと思った。当然、告知されたら誰でもうつ状態になると思う。そして体の痛いところを、がんが原因と思ってしまうのは当たり前だと思う。
そこを医療者が患者のこころに目を向けて、サポートしてくださることは大変重要だと思う。普通の風邪でもこころの持ちようによって変わる。多くの医師がこころの症状に目を向けていただけたらと感じる。
四宮先生は最後に家族。遺族ケア外来のことにも触れられた。外来にて家族、遺族の精神的ケアも行われておられるそうだ。
これもとても大切だ。悲嘆ケアには、いろいろなアプローチがあるが、緩和ケア病棟で亡くなられた場合、それまでに医療者側と遺族側とは良い関係が築かれているケースが多く、とてもこういう外来の存在はありがたいことと思います。
 
私自身、がん患者のこころのケアに以前からとても深い興味があり、また四宮先生はもともと心療内科のご出身の専門家なので、とても分かりやすくご説明いただいた。こういうこころのケアを大切されている四宮先生が緩和ケア長をされているということは、私たちにとっては、とても心強いことだと思う。
「サイコオンコロジー」、ますます深く知りたい分野だと感じた。(浦嶋偉晃)


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