2011年8月21日日曜日

仏教とスピリチュアルケアをつなぐもの~エンディングセミナーにて、大下大圓さんの話を聞く。

  去る7月23日、大蓮寺で開催された「夏のエンディングセミナー2011」において「仏教とスピリチュアルケアをつなぐもの」という題で、大下大圓さんの講演を聞いた。
  大下さんは、和歌山県の高野山で修行し(現在高野山傳燈大阿闍梨)、スリランカへ留学、スリランカ僧として得度研修。飛騨で約25年前より「いのち、生と死」の学習会として「ビハ-ラ飛騨」を主宰。その活動から病院や在宅への専門的なボランティア活動として「ひだ医療福祉ボランティアの会」を結成、ベットサイドのボランテイア活動を続けている。
 今回は仏教とスピリチュアルケアをどうつないでいくのか、またグリーフワークについての講演があった。

■たましいのケア
  今更、言うまでもないがスピリチュアルケアとは、さまざまな要因で死を迎えなければならない人のスピリチュアルペインを和らげるためのケアのことだ。そして、スピリチュアルペインとは、「なぜ自分だけが苦しまなければならないのか」「自分の人生に何の意味があったのか」「死んだらどうなってしまうのか」こういった心の痛みのことあり、このような深い、強い心の痛みを和らげる、なくすための援助がスピリチュアルケアになる。
 大下さんが活動している飛騨高山地区ではスピリチュアルケアを、「たましいのケア」と訳している。実際には訳語として霊的、魂的、哲学的、いのちなどいろいろな表現があるが、日本語としての訳は確立していない。何かあった時に、定型化した解釈や訳ではなく、その時々でスピリチュアルを解釈していかないと、人によってはその時の思いの内容、深さが違う。だから日本語的に表記していくのが、これから必要となる。そしてスピリチュアルなものを具体的に癒していこうとするなら、それぞれの持っている信念や信仰が必要となる。
 もちろんスピリチュアルと宗教は同じもの、同じ意味ではない。その人の価値(宗教観)によって違うのである。ケアする側の信念や価値観の押し付けでなく、相手にどこまでも寄り添うということが重要になってくる。

■死者との対話
 グリーフを癒していくには、本来はその人がその人なりのグリーフプロセスを経ていき、自分で立ち上がっていくものである。お釈迦さまの言う、「自灯明、法灯明」である。つまりあなた自身が灯明であり、あなたの目の前に出てくる課題や苦しみは、すべてあなたの中に解決の糸口(灯明)が隠されている、ということを言われている。時間がかかるかも知れないが、立ち上がっていくものだ。
  しかし最近は病的悲嘆に陥る場合が出てきている。悲嘆感情とその恢復を促すためには、急性期、中期、回復期とあるが、死別者の10~15%が病的悲嘆に陥ると言われている。すべてが順調にグリーフプロセスを経ていくわけではない。日常生活に支障をきたす場合がある。
 グリーフを乗り越える課題として、一つは喪失の事実を受け入れることであるが、それはなかなか受け入れられないのが現状である。ある研究から、スピリチュアリティの角度から考えると、信念、信仰や哲学宗教観、死生観を持っている人のほうが受容しやすいという結果がある。
  また死者を情緒的に再配置することが必要だ。つまり死者と極楽浄土で会えるんだという気持ちを持つことが重要であり、要はあるかないかの問題ではなく、そう思えるかどうかが大事なのである。
 自分の感情や思いを素直に表出し、語り合える関係性が、こころの恢復を促すことがある。つまり出せる場が重要だ。外国人から見れば、日本には仏壇に手を合わすという素晴らしい文化がある。仏壇で亡くなった人と会話が出来る場があるのである。死者と対話をしているのである。
  こういう仏教が持ってきた伝統的儀式を活用すべきである。
  仏教の宗派によって、葬式後、初七日から四十九日までのあいだ仏さまに食事を供える習慣がある。このプロセスが大変重要である。大下さんは亡くなってから毎週七日ごとに訪問し、家族と一緒になってお経をあげて、今の気持ちを聞く場にしている。そうしているとだんだんと四十九日の間に遺族が話す内容がゆっくりと変化していく。気持ちを口に出して人に伝えることにより、再構築がうまくいく場合が多い。グリーフプロセスにとって、四十九日というのは、家族が故人と対話できる最期の期間で、文化としての葬送儀礼だけでなくて、スピリチュアルケアの側面からも意味があり、とても大切な習慣、そして期間である。遺族が一つ階段を上るのである。自分の心を見て、変化していく大切なプロセスである。

■日本人の儀礼性
  大下さんは最近、葬式に関して新たな試みをおこなっている。それが「家族参加型葬儀」だ。
  僧侶と葬儀屋だけで葬式を進めていくのではなく、家族にも積極的に葬儀に参加してもらう。つまり故人に対する別れの言葉を家族から語ってもらうのである。感謝などの言葉を棺と写真に向かって語りかけるのである。家族が故人と最後にしっかり向き合える場、対話する場をつくることにより悲しみを癒すグリーフワークが成立する。遺族は喪に服し悲しみに耐えるのではなく、どこかで悲しみの感情を表出しないと、心が癒されないのだ。

  今回、大下さんの話を聞いて、シンプルかつ身近にできることがたくさんあるのに気づいた。古来より日本人が行ってきた儀式、儀礼を取り戻すことにより、グリーフを癒すことができるのだと感じた。
  私自身、実家に行った折には必ず仏壇に向かって、阿弥陀様、ご先祖に最近起こったこと、今の不安なことを語りかける。そうすると心が開けてスッとする。見えない世界に祈りを捧げる。そういう祈りの時間、祈りの場を持つことの大切さを感じている。
  仏教で「諸行無常」というように、全ての事象はつねに動いていて、苦しみを抱えている人でも、いますぐ事態が変わることはなくても、永遠にその状況が続くのではないということを、大下さんの話を聞いて、よく理解できた。
 とにかく1時間という短い時間だったのが残念である。まだまだ聴きたいと思った。(浦嶋偉晃)


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