2011年5月4日水曜日

「すべては患者さんのために~長崎Dr.ネットの挑戦」

■ひとりに主治医を多数の医師が支える仕組み
 去る3月19日、「奈良県のホスピスとがん医療をすすめる会」の勉強会に参加した。長崎の出口外科医院の出口雅浩さんが登壇され、「長崎における地域医療連携ネットワークの構築~長崎Dr.ネットの挑戦」という題で話題提供をされた。地方都市で、24時間の在宅対応されている先行例として知られている。
 「長崎在宅Dr.ネット」は、在宅訪問診療や往診を複数の医師が連携して行ない、複数の医師が連携して24時間対応を実現し、患者さんが安心して在宅療養を行えるようにすることを目的とし、平成15年3月に結成された。実際には、患者さんの居住地域にあわせて、主治医を決め、さらに、副主治医がバックアップとして控え、訪問診療の分担や万が一の際の緊急対応をおこなうシステムである。
 主治医は、主となって訪問診療・治療に当たる、一方、副主治医は主治医を補佐して訪問診療の分担や、万が一の際の緊急対応を行う。必要に応じて複数の副主治医を各医師の専門性を考慮して決定する。現在長崎市内の診療所の医師69名が登録をしている。
 考え方として、①在宅医療を希望する方が、医師に対応できないという理由で自宅に帰れないことが無いようにする(24時間365日の対応)、②自宅で療養できるだけでなく、入院中に受けたのと同様の医療を受けられることを目指す、③医療・介護・福祉等と連携し、最適な在宅医療を提供する、ことを基本としている。
そもそも8年前にDr.ネットを作ったのは、もともとは情報交換をしていた医師どうしお互い電話でアドバイスをしていたが、その内に、それじゃあ、あなたが代わりに行ってくださいよという感じになり、仲良しグループが形成されていって、Dr.ネットに繋がったようである。ここでも人間関係が基本だ。
 実際の流れだが、入院中の場合、現在入院中だが、自宅へ帰りたい患者さんやその御家族はまず主治医の先生と相談し、自宅療養が可能と判断していただいた場合、まず従来からのかかりつけの開業医の先生と相談。しかし、残念ながら往診や在宅訪問診療を頼めない場合「長崎在宅Dr.ネット」への問い合わせとなる。入院中の病院の主治医、看護師、又は地域連携室の方に相談して「長崎在宅Dr.ネット」事務局へ連絡し、病状、居住地域医を考慮した上で、主治医及び副主治医を決めて連絡する。また自宅療養中の場合は、現在の主治医の先生(かかりつけ医)とよく相談し、それでも在宅診療への対応が困難な場合「長崎在宅Dr.ネット」事務局へ連絡し、病状、居住地域医を考慮した上で、主治医及び副主治医を決めて連絡するということになる。
 主治医と副主治医の連携であるが、副主治医がサブで同行するわけではない。行けば医療費負担が2倍かかることになる。最初に一緒にご挨拶に行く程度で、家の間取りが分かるようにという感じである。あくまでも目的は、一人の主治医を多数の医師が支え、それによって頑張れる仕組み作りである。
実際のところ、主治医と副主治医の報酬の分配は、例えれば副主治医はビール1本程度とか。お互い様という感覚だろう。基本的には、副主治医の出番はないようにしているとのことである。
 一方で欠点として、患者さんが主治医を選べない、正直そりが合わない場合も少なくないという。その場合は再度病院に相談して、仕切り直しをするそうである。

■地域の特性を活かした在宅医療の在り方を
 じつは長崎は在宅死率は下位だが、奈良は全国一番を誇っている。奈良の制度もマッチしている。
 私が一番疑問に思ったのは、主治医と副主治医の関係である。基本的には副主治医が訪問診療しない、報酬がないというのが長崎の原則であるが、やはり奈良のように副主治医ももっと入っていく必要があるのではないかと思う。奈良では副主治医もコンスタントに訪問診療するため、患者さんを把握している。長崎ではそれがないのが、患者さんの不安感を与えるのでないかと感じた。このことを、最後に質問できなかったのが残念である。
 一方、長崎県が在宅死率が低い理由は、病院が多いからとのこと。原爆の関係で都市の規模に対し、非常に病院が多く、常時ベッドが空いているそうである。その分、レスパイトケアが出来やすい。また長崎は坂が多く、道がなく自動車で診療にいけない。また離島が多く、一旦自宅に帰ったら、病院に戻りにくいのでなかなか自宅に帰らないということがあるという。
 今後の長崎Dr.ネットの課題は、新人在宅医をいかに育てるかだ。そして参加医師の人数が県内の地域でばらつきがあるので、もっとネットワークを強めていきたいと言われた。
 奈良にも同様の事態があるが、在宅医の疲弊をいかに改善するかが、課題だ。長崎Dr.ネットの挑戦が在宅療養比率を向上させる取り組みであることは確かだと思った。日本全国でスタンダードな形というのは有り得ないと思うし、各地域の特性を考慮し、どうカスタマイズするかも課題である。
 今後、在宅医療の推進には、末期者はその家族だけが考えていたのでは不充分だろう。学校や家庭、地域社会にあける日常において「死」を、避けるべきものではなく、「皆がいつかは向き合うこと」としてフランクに話し合うベースを築くことがますます大事になっていくと思う。そこで初めて地域社会の中で在宅医療が根付き、成長していくと思う。(浦嶋偉晃)

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