2011年2月15日火曜日

がん患者さんにかかわるということ

■医師と患者の壁

 去る1月22日、「奈良県のホスピスとがん医療をすすめる会」の勉強会に参加した。奈良県立医科大学附属病院 医療サービス課相談係の川本たか子さんがお出でになり、「がん患者さんにかかわって」という題で話題提供をされた。
 川本さんは27年間の看護師経験を経て、奈良県立医科大学附属病院で相談業務に就かれて、今年で3年になられる。
 現在、奈良県内に6箇所のがん診療連携拠点病院があるが、その役割の一つとして、「がん患者・家族に対する相談支援・情報提供」があり、それぞれの病院にがん相談支援センターが設立されている。
 センターの役割として、がんに関するいろいろな悩みや疑問、そして医療費のこと、セカンドオピニオンなど様々なことがあるが、私が気になったのは、「病状や治療方法についてよくわからない」という項目だった。川本さんが言われたのは、患者側に、こんなこと医師に聞くと失礼になるのでは、という遠慮がまだまだ根強く残っているという。この点が気になりながらも、続けてお話を聞いていた。
 看護師、社会福祉士を始め様々な方々が相談員をしておられるが、国立がんセンターの相談員研修を受講された方が相談員の資格を持ち、相談は無料で、その病院で治療を受けていない患者・家族の方でも相談ができるそうである。相談の場はやはり、直接来られる対面面談が多数を占めるが、川本さんの悩みは、現在入院中の方、外来に来られている方で相談者があまりいないこと。もっと増えてほしいと言われていた。
 相談内容としては一番多いのが、「社会的・経済的な問題」で、医療費・生活費の悩みや介護保険の適用の可否の問い合わせであり、2番目として「診療治療に関すること」で、がんの検査・治療、医療者との関係、診断治療の理解・選択である。私が思うにはこれは医師との関係の中で解決している問題かと思ったが、やはり患者と医師の間に未だに「壁」が存在しているようだ。ここでさっきの気になる点が改めて出てきた。
 今、世間では、「良い患者さん」になれ、とか言うが、そんなことはなかなか簡単に出来そうにない。患者は常に限りなく医療者に遠慮し、忙しいのにこんなことを聞いて良いのか、もう一度聞いたら申し訳ない、こんなこと聞いたら失礼じゃないだろうかという自己規制があり、聞きにくい。そのことが今回の川本さんのデータから改めて浮き彫りになった。
 また、がん対策基本計画の中に、がん患者や家族等が心の悩み体験を語り合う場を提供する活動を促進する、というのがあり、各所に「がんサロン」が設立されている。現在、奈良県内でも4つの病院にあり、定期的に患者・家族の出会いの場、情報交換やお互いの気持ちを聴きあう場を提供している。やはり患者さんや家族の方が、体験した人でなければ分からない「辛さ」や「生活上の工夫」などを語り合う場となっている。またいつでも予約なしで、無料で、気が向いたときに参加できる仕組みになっている。
今後の相談支援センター・患者サロンの充実に向けた課題として、
 ①利用者が増加しない→相談支援センター(窓口)の案内不足
 ②相談体制の整備→相談支援の窓口が複数の業務を担当していて、数、質ともに不足している、
というのが掲げられる。
 今後はいかに認知度を高めるための活動を続けていくのかが大きなポイントだろう。なかなか病院内での組織の無理解というのもある、組織の障壁はどこの世界でもあることなので、川本さんたちが、その中で負けずに進めていっていただくためのフォローを私たち市民が出来ればと強く思った。

■がんサロンという場所の可能性

 続いて、「がんサロンに参加して」というテーマで、がん患者の立場から野村佳子さんがお話しになられた。
 野村さんは膵臓がんを患われたが、今はお元気で「がんサロン」などでピアサポーターとして精力的に活動をされている。
 野村さんは、家族や知人に病気のことを相談するとかえって心配させてしまうが、「がんサロン」では、全てのさらけ出せるのが良い点であり、1ヶ月毎のサロンに参加することが次の目標になり、励みになったという。サロンの皆さんと、このひと月の間にどのようなことがあったかを報告しあうようになり、それが良い目標になったそうである。サロンの人の中で、「がん患者のイメージを変えたい」と、積極的にスポーツに参加する人を見て、「死」までの時間を大切にどう送るかを考えるようになった。また同世代の患者さんと家族、子ども、生活のことを気軽に話し合えるようになり、今までのように助けられるだけでなく、自分には他の人を助ける立場になれることが出来るということに気づかれ、それがとても励みになったという。
 一方で、サロンをいかに広げるかを常に考えている。なかなか県相手には難しい面もあるが、現在では市町村の広報誌に案内を掲載してもらえるようにまでなった。もっともっと気軽に参加して欲しい、病院によって特色があって面白いと、力強く言われた。
 今後サロンに望むのは、患者の思いを受け止める、温かな場所であってほしい、やはり外では泣けないのが本音である、そしてもっとも手軽な緩和ケアの場であると言われた。
 野村さんが最後に言われたのは、自分は転移したときに失望したが、サロンの存在が心強かった。生きる希望をいかに持つかが大事である。他の頑張っている人を見て、自分も他の人を元気づけることができる立場になれるんだ、と繰り返し言われた。そして何よりも、今は自分の病気のことを人前で言えるようになれたと言われた。まだ、「がんサロン」に対して理解のない病院があることも確かだ。だが、野村さんのように情熱を持たれた方がいらっしゃるのは本当に心強いこと。それに他の人にまで気持ちが行くようになったというのはすごいことだと思った。
 今日は川本さん、野村さんのお話をお聞きして、がん治療にとって3大治療以外にどれほど大切なものがあるのか気づかされた。私もがん相談支援センター、がんサロンについて、いろいろな方々にPRをしたいと思った。とても勇気の出る話をお聞きした。
 最後に勉強会が終わって、帰り際に川本さんに2つの質問をした。1つは患者・家族と医療者の壁について。川本さんは「壁は大きく存在しています」と言われた。つぎに今後、グリーフケアの相談についてどのように対応しますか、と尋ねたが、やはりご遺族からの電話はあるそうで、今はただお聞きするしかないと。今後はきちんとグリーフケアの研修を受けることを考えていると言われたのが印象的だった。(浦嶋偉晃)

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