2009年8月12日水曜日

「‘みとりびと’は語る」いまい内科クリニック院長 今井信行さんのご講演をお聞きしました。

 7月25日、エンディングセミナー第2回目のゲスト、いまい内科クリニック院長 今井信行さんの講演をお聞きしました。聴講の内容を以下に報告します。
 今井さんは冒頭、一つのケアの連続性の中に看取りがあり、在宅ホスピスが看取り自体を目的としているわけではないと言います。その上で、今井さんは看取りに関心があり、文章に必ず句読点があるように、一人の方の人生に関われて、ピリオドを打つお手伝いが出来ること、そして少しでも喜んで頂けるなら、これに勝るものはないと仰いました。
 今井さんにはかつて病院の勤務医経験があります。病院は治療という目的を最優先する管理された空間ですが、その反面自宅というのは、人が生涯をかけてコツコツと作り上げてきた、かけがえのない、最も心地よい空間だといいます。だから、自ずから勤務医と在宅医はそれぞれの舞台が違うとも仰っておられました。


 最期と対峙しながら、在宅では患者さんと家族のさまざまなかかわりがあります。講演では今井さんが在宅で関わってきた症例について、いくつかお話を頂きました。
 60歳代の末期患者さんがいよいよ状態が悪化してきた時、その方の枕元に家族や知人が集まって、銘々に大きな声で声をかけ、一生懸命に励まされたそうです。だんだん呼吸が小さくなる一方で、周囲の励ましに応えるように生きながらえる患者さんを見て、生と死の境界上に生まれる家族どうしの濃密な関係を目の当たりにされたといいます。
 在宅医療とは、いのちが際立つ臨床です。病院や施設にはない尊い存在感であり、生と死のリアリティであり、そこに今井さんは人間として深い共感を感じるといいます。
 今井さんは、在宅ホスピスの主人公はあくまで「家族」であると言います。家族の方がいかに安心してわが家で療養をしてもらえるか、たとえれば家族でなければ演じることのできない「家族劇場」をいかに舞台裏から支えるかが、自分たち在宅医の役目であり、これからも黒子に徹したいと仰っておられました。別の言い方をすれば、在宅ホスピスとは、家族が家族であることの幸せを再確認する場なのです。
 今井さんは昨年から「有隣荘」という、在宅療養支援ハウスを新たに開設されました。これは、病院・施設と自宅との間にある、いわばまちの縁側のような新たな場です。少子化が進み、ひとり暮らしが増える地域において、互いを支え合う拠点として、育てていきたいと言います。管理中心の施設ではなく、中間的な拠り所になるようにしたいと仰られました。

 今回、今井さんのお話しをお聞きして、在宅ホスピスは患者さんとご家族がいのちに向き合う場。そしてあくまでも家族が中心だと分かりました。また自宅で残された日々を輝いて生きたいという患者さんの願いを、いかにしてサポートするかを含め、在宅ホスピスの今後の可能性について、じっくりと考えさせられた一日でした。
(浦嶋偉晃)


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